チベット語:ドルジェ・センパ・ヤブユム
梵語:ヴァジュラ・サットヴァ
金剛薩捶は、密教修行において修行者の心を浄化するため、また悪業や破戒による障碍、穢れを浄めるためにその姿を観想し百字真言が唱えられるなど、チベット仏教において非常に重要な尊格です。
チベットで一般的に見られる”金剛薩捶”は、体は白色で、冠や瓔珞(首飾り)、腕釧(ブレスレット)等、菩薩の装身具を全て身に着け、白い蓮台の月輪に結跏趺坐で座します。持物としては左手の女性原理・智慧を象徴するティルブ(金剛鈴)を腰に、右手には男性原理・慈悲のドルジェ(五鈷杵)を胸前に持つ寂静の姿で描かれます。
本タンカに描かれる金剛薩捶は上記の物とは別の儀軌に従うもので、装身具や持物は通常の金剛薩捶と同じですが、ドルジェ(五鈷杵)とティルブ(金剛鈴)を持つ両手が、明妃を抱くように胸前で交差する姿で描かれています。
制作年:2004年
サイズ:40×60cm
<基底材>
綿布、チョーク、膠液
<彩色画材>
ガッシュ、インディゴ、金泥
”浄化”の尊格・金剛薩捶の瞑想修行において、その姿が”陽の光に反射して輝く雪山”や”水晶”に例えられることがあります。そのことから、通常のタンカの制作ではいくつかの異なる色をバランスよく使い彩色される衣や装身具などの部分が、本タンカでは赤やオレンジといった暖色が使用されず、身体は白く、その他のほとんどの部分は色味の異なる青・緑といった寒色と純金泥で彩色されています。
画面の大半を占めるインディゴの空に来迎した金剛薩捶。尊格の乗る雲は、後方に向かって徐々に消え入るように描かれ、光背は白色の暈しによって光の球体の外側のみを描き、そこに細く長い曲線を等間隔で引いた透明感のある表現がされています。
また装身具などのような純金泥のいくつかの部分は、瑪瑙で磨くことで輝きを増し、その輝きが深い藍色の空に顕現した尊格を美しく荘厳しています。