チベット語:ドルジェ・センパ
梵語:ヴァジュラ・サットヴァ
密教修行において、本来の修行過程に入る前の「前行」または「加行」と呼ばれる準備段階で修行者の心を浄化するため、また悪業や破戒による障碍、穢れを浄めるためにその姿を観想し百字真言が唱えられるなど、ニンマ派・カギュ派・サキャ派・ゲルク派のチベット仏教の四大宗派すべてに共通する重要な尊格です。
その体は白色で、冠や首飾り、腕輪等、菩薩の装身具を全て身に着け、白い蓮台の上の月輪に結跏趺坐で座します。持物として左手に持つ女性原理・智慧を象徴するティルブ(金剛鈴)を腰に、右手には男性原理・慈悲のドルジェ(金剛杵)を胸前に持つ寂静の姿で描かれます。
手の印相や体の色、単独か明妃を抱いた姿など多くの異なる姿を持つ尊格で、そのもっとも激しい忿怒の変化身に三面六臂で翼を持つ”ドルジェ・プルパ(ヴァジュラ・キラヤ)”があります。
制作年:2008年
サイズ:21×26cm
<基底材>
綿布、チョーク、膠液
<彩色画材>
藍銅鉱、孔雀石、本藍、白土、胡粉、純金泥など
”浄化”の尊格・金剛薩捶を描いた、A4程度のサイズの小さ目のタンカ。
金剛薩捶の瞑想修行において、その姿が”水晶”や”陽の光に反射して輝く雪山”に例えられることがあります。そのことから、通常のタンカの制作では、いくつかの異なる色をバランスよく使い彩色される衣や装身具などの部分が、本タンカでは赤やオレンジといった暖色が使用されず、身体は白く、その他のほとんどの部分は色味の異なる青・緑と純金泥のみで彩色され、頭光・光背は、白色を暈して描いた球体に純金泥の細い線を描き込むことで表わし、背景を隠すことなく透明感のある表現で描かれています。
また装身具などのような金泥のいくつかの部分は瑪瑙で磨くことで輝きを増し、その輝きが青を基調とした彩色に荘厳さを与えて、金剛薩捶の”浄化”の働きに相応しい清浄で清らかな雰囲気のタンカになっています。
胸の中央より少し左寄り、ちょうど心臓の前の右掌にある”ドルジェ”(金剛杵)
ドルジェの柄の部分を下に向けて左手に持つ”ティルブ”(金剛鈴)
瑪瑙で磨かれて輝く、純金泥で彩色された宝冠などの装身具。