阿弥陀仏の西方極楽浄土スカヴァティを意味するチベット語”デワチェン”をタイトルに持つこの作品は、タンカとしては珍しい横長のキャンバス一面に広大な蓮池を描いた作品です。尊格は一切描かれておらず、その意味において、現在は”チベットの仏画”と同義語のように使われる”タンカ”と言える作品ではなく、伝統的なタンカの画材や技法を用いて制作された創作的な作品です。
仏の浄土に相応しく、枯れて萎れたものや虫食い等の一切ない蓮の花や葉が画面の半分を覆い、その蓮群の途切れた部分に見える水面が、右繞を促す一筋の道のように手前中央から左奥へと伸びています。背景には遠くに霞む幽玄な山々とそこから湧き出る泉による幾筋もの滝、そして様々な雲が伝統的なタンカの様式で描かれています。
制作年:2017年
寸法:74.5×27cm
<基底材>
綿布、白土、チョーク、膠液
<彩色画材>
天然顔料、天然染料、緑土や黄土、純金泥、墨など
画面下半分のほとんどを埋め尽くす蓮の葉はすべて数種類の色合いのことなる天然緑青、つまり孔雀石を粉砕した顔料で彩色した上に本藍や、チベットでシュンケンと呼ばれる植物の葉から抽出される染料で陰影が施されています。
背景の山々や雲等はごく薄い墨と本藍で彩色され、その淡く遠景を描いた画面の上半分と、天然顔料ならではの落ち着いた輝きで彩色された画面下半分の蓮群とのコントラストが画面に奥行きを持たせています。
画面左端近く、蓮群の隙間に出来た水路を走る一艘の小さな笹船。
八功徳水をたたえる池に咲く蓮の花は車輪のように大きく、色とりどりに輝き、素晴らしい芳香を放つと経典にあります。
背景には、タンカの伝統流派の一つカルマ・ガディ派の様式で様々な形の雲が淡く描かれています。