道具としての絵画
輝く白い身体で優しく微笑む尊格から、骨や血肉を身体にまとい、複数の眼を見開いた多面多臂の忿怒尊など、極彩色の密教世界を細密に描いたチベットの仏画「タンカ」は、寺院や民家の装飾品としての単なる観賞用美術ではなく、修行者の瞑想を補助するための道具となるべく経典(儀軌)に従って描かれた実用的な絵画です。
カルマ・ガディ派
インド・ネパールや中国といった周辺国から影響を受けながら、チベットの天才絵師達が作り上げてきたタンカの伝統。カルマ・ガディ派は東チベットで発展した流派の一つで、背景の透明感のある淡い色に対して、尊格は鮮やかな強い色で彩色されます。他の流派に比べ写実的で、空間的な「間」を活かした構成の中に描かれる細密な描写が特徴です。
伝統技法と天然顔料
細密描写を妨げない滑らかでしなやかなキャンバス、そこに儀軌に従い描かれる様々な尊格と、各々の尊格に相応しい供物や背景描写。暖かい色合いの天然土や透明感のある染料、そして天然石を砕いて作られた宝石のように美しい顔料といった、自然の中から取り出した色を使ってそれらを彩り、鮮やかな仏の世界を描きます。
タンカ絵師
タンカに描かれる尊格は、儀軌によって姿形、色、持物などが定められています。その為に絵師には絵画の技法だけでなく仏教の教えに関する知識も求められます。タンカ絵師はその知識をもとに、儀軌に反することなく自由に描ける範囲を見極め、自らの経験と技術、想像力を駆使して尊格とその世界をより神々しく荘厳します。